中医鍼灸がどのように始まったのか

中医学とは中国伝統医学のことで、一般的には東洋医学とも言われていますが、厳密には東洋にはインドのアーユルヴェーダなども含まれるので、我々は中医学と言っています。
起源ですが、昔の原始の時代では、「傷口をなめる」「痛いところをなでる、さする」「木の葉を貼る」など本能的に医術が行われていたと思われます。
石器時代、細くて鋭い石器で皮膚を切り、これによって膿を排出させたりして、疾病の治療が出来ることを経験し、以降道具の発達に伴い金属製の針が治療に応用されるようになりました。
気、陰陽、五行などについて探究がなされ、鍼灸や気功などに共通する理論体系が確立され、中医学の基礎がつくりあげられたのが、戦国時代から前漢にかけてと考えられます。
それは、中医学の最古で体系的な医学書である『黄帝内経』が生み出されたことから分かります。
黄帝内経は作者不明で、紀元前200年ごろから220年ごろ(前漢から後漢)に書かれたもので、当時の医学水準を越えた内容が少なからず含まれています。
例えば、人体の骨格、血管の長さ、内臓器官の大小などは現代医学の数値とほとんど一致しています。
その後、『難経』や『傷寒雑病論』などが著され、経験医学として発展してきました。
中医理論の基礎
■陰陽学説
陰陽学説では、世の中に存在するすべてのものは、陰と陽との二つの要素から成り立っていて、さらに陰と陽は互いに対立し、かつ影響しあうものとしています。
例えば、月が陰なら太陽が陽となり、地が陰なら空が陽となり、女性が陰なら男性が陽となります。
さらに、すべての事象も陰と陽とに分けられます。
陰は衰退・静止・寒性・不変などの性質があり、陽は亢進・活動・熱性・変化しやすいなどの性質があります。

陰陽は、一方が他方を抑制する関係にあります。
例えば、陽である「気」には、体を温める働きがあり、陰である「陰液(水分や血)」には、体の温まりすぎを抑制する働きがあります。
正常な場合は、気と陰液は互いに抑制しあい、寒熱の平衡バランスを保っています。
もし陰液が不足すると、体を冷ます力が弱くなり、体が熱をもった状態になってしまいます。
これは陰陽のバランスが崩れた状態です。
■五行学説
五行の五とは、「木・火・土・金・水」の五つの要素をあらわしたもので、行とは運行を意味しています。
つまり、五行学説では、すべてのものや現象には、木・火・土・金・水という五つの要素が含まれていて、互いに変化・影響し合い成り立つものと考えています。
| 五行 |
木 |
火 |
土 |
金 |
水 |
| 性質 |
曲直 |
炎上 |
稼穡 |
従革 |
潤下 |
| 五臓 |
肝 |
心 |
脾 |
肺 |
腎 |
| 五腑 |
胆 |
小腸 |
胃 |
大腸 |
膀胱 |
| 五主 |
筋 |
血脈 |
肌肉 |
皮膚 |
骨 |
| 五官 |
目 |
舌 |
口唇 |
鼻 |
耳 |
| 五志 |
怒 |
喜 |
思 |
憂 |
恐 |
| 五色 |
青 |
赤 |
黄 |
白 |
黒 |
| 五季 |
春 |
夏 |
長夏 |
秋 |
冬 |
| 五味 |
酸 |
苦 |
甘 |
辛 |
鹹 |
肝を例にとると、肝は五臓のうちでも木の要素が強い臓です。
木の性質をおびた肝は、樹木が伸びるように気血を全身にめぐらせる働きがあり、また精神的にものびのびし、ストレスのない状態を好みます。
しかし、ひとたび外界からストレス刺激を受けると、のびのびできなくなり、イライラする、怒りっぽいなどの感情が出てきます。
これは樹木に外からの圧迫が加わると、枝が伸びきれない状態に似ています。
肝がこのような状態のときには、筋肉がこわばり、顔には青筋がたち、目がつり上がったりします。
また、春には肝に関する病気が多くなり、治療には酸味をもつ薬物を使うことが多くなります。
臓腑の働きは、この五行の相互の助け合い、制し合いによって適切に行われています。
(相生、相克、相乗、相侮の関係)
気・血・津液
「気・血・津液という3つの要素が人間の体を構成している」というのが、中医学の基本的な考え方です。これら気・血・津液が十分にあり、体中をスムーズに流れている状態を健康としています。
何らかの要因よって、気・血・津液のひとつでも不足したり停滞したりしてしまうと、不調が身体に現れます。気・血・津液の不足を補い、停滞を解消することが、中医学の治療の基本となります。
『生命活動のエネルギー源』
気は目に見えませんが、体内を流れる栄養物質のことをいいます。
見えないものは理解しづらいですが、そんな時は空気のことを考えてみましょう。空気は目に見えませんが、空気の中には、酸素(O₂)・水素(H₂)・窒素(N₂)などが含まれています。そのうち水素と酸素がくっつくと水(H₂O)となります。水になると目に見えるので、存在が分かりやすくなります。
こうしてみると、気という見えない存在もあるように思えてきませんか。
【気の働き】
・体の新陳代謝や成長を促し、血液や尿、便などを移動させる
・体を温める
・ウイルスや細菌の侵入を防ぐ
・出血しづらくしたり、内臓の位置を保つ
・取り入れた水や食べ物を、栄養物質に変化させる など
『全身に栄養を与える血液』
血とは、血液のことです。
血管を通り、全身を流れ、各器官に栄養を与えています。
【血の働き】
・皮膚、筋肉、骨、臓腑など全身の器官を栄養する
・さらに各器官に潤いも与える
・精神活動の栄養源になるので、情緒を安定させる など
『血液以外の体内の水液』
津液とは、汗・尿・唾液・髄液・浸出液など、体内の血液以外の水液のことをいいます。
【津液の働き】
・目、鼻、口、のど、皮膚、毛、臓腑などに潤いを与える
・関節や筋肉に潤いを与え、体の動きを円滑にする
・血に変化する
六臓六腑の中医学での働き

・全身の気を順調にめぐらせる
・精神状態を安定させる
・胆汁を分泌させる
・血液を貯蔵し、血量を調節する
・筋肉を働かせ、長時間の運動や労働を可能にする
・目を栄養し、物をはっきり見させ、乾燥を防ぐ

・胆汁を蓄える
・物事に対して勇気をもって決断する

・血を循環させる
・精神状態を穏やかにし、思考能力を活発にする
・味覚や舌の機能を維持する

・胃で消化された飲食物をさらに消化し、栄養物質を吸収する
・食物残渣の水分を膀胱に、固形物を大腸に送る

・飲食物を消化吸収し、栄養成分を作り出す
・その栄養成分を心肺に上昇させ、内臓の位置も下がらないように維持する
・血があふれ出ないようにする
・筋肉を発達させ、壮健にする
・口や唇を管理し、食欲や味覚を正常に保つ

・食べた飲食物を受け入れ、消化する
・消化した飲食物を腸管に下降させる

・必要な気を吸い込み、不要な気を吐き出す呼吸を行う
・脾が送ってきた栄養成分を、全身の臓腑組織に送りとどける
・吸い込んだ気を腎に送ったり、不要な水液を膀胱にさげる
・気の調節に関与する
・皮膚、汗腺、毛などを潤す
・鼻の働きを維持する

・大便をつくり、排泄する

・精気を貯蔵し、人体の発育・生殖機能を正常に保つ
・水液から尿をつくったり、同時に再利用して、水液代謝を行う
・排尿や排便を行う
・呼吸が浅くなるのを防ぐ
・聴覚を鋭敏に保つ

・尿を蓄える

・形がなく働きだけがある臓器で、心を包んでいる膜と考えられている
・邪の侵入から心を守る

・実体がなく働きだけがある器官
・気・水液のめぐる通路